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エチケットとアート

2025

2025年ヴィンテージのテーマは「甲斐絹(かいき)」です。
江戸時代から昭和初期にかけて、山梨県で生産されてきた甲斐絹。非常に軽く、平滑な生地でありながら、腰もあり、独特の光沢やさらっとした風合いが特徴です。「先染め・細番手(細い糸を使う)・高密度」という特徴を持ち、とりわけ羽織や着物の裏地に用いられてきました。
第二次世界大戦後は、洋装化・機械化にともない甲斐絹は姿を消してしまいましたが、今、伝統文化資産として復活へと動いています。

本年は、山梨県産業技術センターの協力のもと、甲斐絹の魅力をお伝えします。

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絣甲斐絹 K002 / K033
【画像:左=K002 右=K033】

絣は、経糸、あるいは緯糸、またはタテヨコ両方の糸を部分的に染め分け、その糸を織ることで柄を表す技法です。インド、東南アジア、中国南部から伝わり、中世以降に日本に根付いたとされ、現在では久留米絣や伊予絣などがよく知られています。

その日本の絣織物のなかでも、このK002、K033は、どちらも異端といえるようなアヴァンギャルドな作品です。

特徴的なのは、全体のデザインに「繰り返し」が想定されていないことです。 通常の絣織物は、着物などの表地に使われることを前提としているため、基本的には繰り返し柄で、上下左右に並べたり、着物に仕立てたりしたときに、均一で一続きのものになるよう設計されています。中心と周辺の対比がなく、どこを切り取っても大きな違いが生じないのが一般的です。

しかしK002、K033には、まったくその雰囲気がありません。 どちらにも中心と周辺の明確な構造があり、色彩についても、K002は左右、K033は中央と左右に極端な色相差があります。そこから見えてくるのは、均一さよりも「生地の幅の中で、いかにダイナミックな構造をつくれるか」という思想です。

また、どちらも左右対称の構造を持ち、その姿はキューブリックの『2001年宇宙の旅』終盤の、いわゆるスターゲート・シークエンスを思わせます。伝統的な和柄とは思えないほど極端な表現で、自由に新しさを追求した果てに生まれたものといえるでしょう。

K002には、伝統的な亀甲模様を思わせる図案が絣で描かれていますが、その六角形はあえてタテに引き伸ばされています。伝統的な文様を用いながら、そこからも逸脱しようとする意図があるのかもしれません。

こうした大胆なデザインが生まれた背景には、甲斐絹が着物全体を覆う表地ではなく、主に羽織の裏地として、限られた枠のなかに用いられてきたことがあります。中心を持たない繰り返しのパターンではなく、「額縁を持った絵画」のように見せることのできる布だったからこそ、これほど自由な表現が生まれたのでしょう。

今回のエチケットでは、この2点の絣柄を組み合わせています。横方向にブレる絣特有の表情を斜めに配することで、静止した布にさらに動きを与え、100年近く前の大胆な造形を現代のグラフィックとして再構成しました。

染織技術及び意匠についてのコメント原案:山梨県産業技術センター 研究管理幹 五十嵐哲也

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絵甲斐絹「柳桜」
大正3(1914)年頃に製作された絵甲斐絹の一部です。モチーフには、素性(そせい)法師の歌

見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける
(『古今和歌集』)

が用いられています。柳の緑や桜の色が織り交ざる、都の春を「錦」にたとえたこの歌の世界が、図様として丁寧に織り上げられています。
本作は、縦糸に絵付けを施しながら織り進めるという、きわめて高度な技法によって制作された一点です。

これを羽織の裏地に仕立て、花見の席に臨めば、ふとした拍子に裏地がのぞき、見る人に歌の情景を思い起こさせます。
機知に富んだ趣向を通して、和歌の教養を共有する。当時の人々のあいだには、そのような粋で洗練された文化的交流が息づいていました。

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絵甲斐絹「忠臣蔵〈赤垣源蔵徳利の別れ〉」
織り機に仕掛けた縦糸に、絵付けを施しながら織る技法の「絵甲斐絹」より。大正2(1913)年頃に製作された絵甲斐絹「忠臣蔵」より一部を抜粋、天地を反転し、エチケットを作成しました。
下部のストライプが現代的なデザインで、その下のプリミティブな佇まいの徳利とコントラストをなしています。これを抜き出し、マット銀で囲むことで未来感を演出しています。 絵甲斐絹の表現に、マーク・ロスコのような現代的な抽象表現との親和性を見出したエチケットです。

画像提供:山梨県産業技術センター
参考資料:甲斐絹ミュージアム https://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/
エチケットに使用された画像は、山梨県産業技術センターに所蔵されている明治~昭和初期の甲斐絹生地見本のアーカイブから選ばれたものです。