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エチケットとアート

2020

Osamu MATSUO

書SHO:松尾 治(Osamu MATSUO)

書作家。璞川会(はくせんかい)主宰、専修大学文学部日本文学文化学科准教授
1970年福岡県生まれ。新潟大学大学院修了。古典に立脚した少字数書を中心に、小品から超大作(壁面芸術)まで現代書を表現する。アジア国際共同制作「ベトナムから見つめた日本」出演(ホーチミンテレビ)、「國際書藝動向2010展」日本代表(韓国・大邱市に作品収蔵)、「2018中日書法莱州展」日本代表(中国・莱州市博物館収蔵)、「東京2020オリンピック・パラリンピック記念書展」実行委員会実務委員(文化庁主催)。毎日書道展、安芸全国書展などで受賞多数。著書(共著)に『一文字ART』、『二文字ART』、『三文字ART』、『四文字ART』(日本習字普及協会)。

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「風」という文字を甲骨文字で書きました。古代中国人はカタチないものを可視化(文字化)して表現するという偉業を成し遂げました。また、中国の神話では風土・風俗・風格・風邪などが風神によって支配されている神話的背景が表現されました。今回は単に字形の楽しさだけでなく、そうした神話的な背景の中に思いを投影させ書いてみました。因みに怪獣のようなこの字形は、「鳳」がモチーフになっています。風味をお楽しみ下さい。

「風」という字について
「(『風』の)甲骨文字は鳥の形。神聖な鳥であるので冠飾りをつけている。鳳のもとの形と同じである。(中略)天上には竜が住むと考えられるようになり、風は竜の姿をした神が起こすものであると考えるようになって、鳳の形の中の鳥を取り、虫(竜を含めた爬虫類の形)を加えて、風の字が作られ、『かぜ』の意味に用いられる。(後略)」(引用:白川静『常用字解』平凡社、2003年)

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「花露」とは花上のつゆ、香水やお酒をあらわす中国の言葉です。色合い、薫り、味わいが整った華やかさをイメージして書きました。 紙に墨をそっと含ませるような感覚で書き進め、伸びやかさの先にある余韻を紙面に求めました。普段使用している墨と超長鋒(直径6㎜×長さ5㎝の羊毛)の筆で表現しましたが、敢えて文字部分は白黒反転加工し、肌理細やかなカスレを強調したデザインに仕上げました。

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「Passo a passo」
パッソ・ア・パッソはイタリア語で「一歩一歩」という意味です。海辺の風景を逆光で撮影と思われる一枚の写真を目にした時に衝撃を受け、瞬間的に「これだ!」と作成しました。上部の「一」字の書線と、下部の「一」字の間に、この言葉を書きました。上部の「一」字は淡墨といって濃く磨った松煙墨を100倍くらいに希釈した墨を使用しています。この書線は、墨の微粒子の大きさの差異により陰影を出すように運筆し、透明感のあるニジミにより遠近感を狙いました。下部の「一」字は濃墨をたっぷりと紙に深く落とし込む感覚で書き、質感を出しました。しかし、本作の最も大切なポイントは上下「一」字の間の白です。