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エチケットとアート

2018

おさのなおこ

おさのなおこ(版画家)

横浜生まれ。創形美術学校にて版画を専攻。卒業後は山梨の八ヶ岳の麓にある、創作工房「人力宇宙船」にて、小屋つくり、畑作り、木工を学びながら版画を制作。2007年「版画工房Nao」として独立。国際版画展、個展、グループ展、イベント出展、カフェの室内装飾、音楽会の舞台美術、広告、書籍の挿絵、製品ラベルのイラスト提供など、多岐にわたり活動する。銅版画と木版画の教室、「版画ゆうびん舎」では、ユニークな版画教室を展開中。
URL : https://hangakobo.com

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エミリ・ディキンスンの詩作から着想を得て制作。版画家・おさのなおこ、醸造家・小林剛士、制作ディレクター・柿本礼子で原詩の翻訳をし、その対話を進める中で詩篇への理解を深め、絵に表現している。「何度も詩を読み返す中で、詩人の灯火の光の色は、青色だと思うに至りました」と、おさのなおこ。詩篇の翻訳に当たっては、長くエミリ・ディキンスン詩を探究されている早稲田大学教授(文学部、英文学)の江田孝臣先生にご指導を賜った。

F930 / J883
Emily Dickinson

The Poets light but Lamps
Themselves – go out –
The Wicks they stimulate
If vital Light

Inhere as do the Suns-
Each Age a Lens
Disseminating their
Circumference –

F930 / J883
エミリ・ディキンスン

詩人はランプに火を点すだけ
彼ら自身は消えてゆく
彼らの活気づける灯芯は
もし光に命があるならば

恒星のように永くもつ
各時代がレンズとなり
それぞれの円周を
押し広げる

(おさのなおこ、小林剛士、柿本礼子共訳)

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ロバアト・ブラウニングの詩篇「至上善」の上田敏訳(『海潮音』所収)から着想を得て制作した。おさのなおこが大切にするモチーフ、人魚を心静かに見つめる中で、二人の人魚が対話を始め、詩に登場する蜜蜂、海、大地、乙女という存在が密接に繋がったイメージとなった。「至上善の詩からは、海よりも何か土の香り、大地を強く感じました。さらに共栄堂のワインの味の奥深さも強く感じていたので、それをなんとか彫り起こしたいという思いで版に向かいました」

Summum Bonum
Robert Browning

All the breath and the bloom of the year in the bag of one bee:
All the wonder and wealth of the mine in the heart of one gem:
In the core of one pearl all the shade and the shine of the sea:
Breath and bloom, shade and shine, wonder, wealth, and—how far above them—
Truth, that's brighter than gem,
Trust, that's purer than pearl,

Brightest truth, purest trust in the universe—all were for me
In the kiss of one girl.

至上善
ロバアト・ブラウニング

蜜蜂の嚢にみてる一歳 の香も、花も、
宝玉の底に光れる鉱山の富も、不思議も、
阿古屋貝映し蔵せるわだつみの陰も、光も、
香、花、陰、光、富、不思議及ぶべしやは、
玉よりも輝く真、
珠よりも澄みたる信義、

天地にこよなき真、澄みわたる一の信義は
をとめごの清きくちづけ

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ホセ・マリヤ・デ・エレディヤの詩篇「珊瑚礁」の上田敏訳(『海潮音』所収)から着想を得て制作した。おさのなおこが追いかけているモチーフの一つである人魚を、この詩篇を舞台に泳がせたという。「(上田敏の)訳詩の美しさに強く惹かれました。明治時代の日本人の息遣い、心のあり方にも強く魅力を感じています。遠い国の遠い時を生きていたエレディアという詩人が照らし出した世界を追いかけるように版木に向かいました」

Le récif de corail
José-Maria de Heredia

Le soleil sous la mer, mystérieuse aurore,
Éclaire la forêt des coraux abyssins
Qui mêle, aux profondeurs de ses tièdes bassins,
La bête épanouie et la vivante flore.

Et tout ce que le sel ou l'iode colore,
Mousse, algue chevelue, anémones, oursins,
Couvre de pourpre sombre, en somptueux dessins,
Le fond vermiculé du pâle madrépore.

De sa splendide écaille éteignant les émaux,
Un grand poisson navigue à travers les rameaux ;
Dans l'ombre transparente indolemment il rôde ;

Et, brusquement, d'un coup de sa nageoire en feu
Il fait, par le cristal morne, immobile et bleu,
Courir un frisson d'or, de nacre et d'émeraude.

José Maria de Heredia 1893 “ Les Trophées”

珊瑚礁
ホセ・マリヤ・デ・エレディヤ

波の底にも照る日影、神寂びにたる曙の
照しの光、亜比西尼亜、珊瑚の森にほの紅く、
ぬれにぞぬれし深海の谷隈の奥に透入れば、
輝きにほふ虫のから、命にみつる珠の華。

沃度に、塩にさ丹づらふ海の宝のもろもろは
濡髪長き海藻や、珊瑚、海胆、苔までも、
臙脂紫あかあかと、華奢のきはみの絵模様に、
薄色ねびしみどり石、蝕む底ぞ被ひたる。

鱗の光のきらめきに白琺瑯を曇らせて、
枝より枝を横ざまに、何を尋ぬる一大魚、
光透入る水かげに慵げなりや、もとほりぬ。

忽ち紅火飄へる思の色の鰭ふるひ、
藍を湛へし静寂のかげ、ほのぐらき清海波、
水揺りうごく揺曳は黄金、真珠、青玉の色。

上田 敏 訳 1952『海潮音』新潮文庫

     

K18ヴィンテージでは、おさのなおこさんの木版画をエチケットに採用しています。おさのさんが詩篇からインスピレーションを得て彫り上げた作品です。K18bAKシリーズは、詩篇(訳詩)をタグにつけてご紹介しました。